遺産の分配で書面を交わした方が良いパターン【遺産分割協議書は作るべき?】
相続財産の分配について、書面を残しておいた方が良いかと質問を良くいただきます。
いわゆる「遺産分割協議書」と呼ばれる書面は、作っておかないと困るパターンがあります。
そのような事例をご紹介します。
ご自分の家庭において作った方が良いか、この記事をご参考になさってください。
▼目次
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遺産分割協議書を作った方がよいケースについて厳選して3つ紹介しています。
Qうちは仲が良いので、皆が納得していれば遺産分割協議書は作らなくても良いですよね?
故人の遺産の分配について、相続人の間で話し合うことを「遺産分割協議」といいます。
遺産分割協議は口頭でも成立しますので、書面に起こさなくても遺産分割協議は成立します。
しかし、家族と言えども時間が経つにつれて状況や人間関係が変わることがあります。
後々のトラブルを防止のため遺産分割協議書を作成しておく方が良いでしょう。
どんなトラブルが想定される?
父、母、兄、妹 の四人家族がいたとします。
父が他界し、母と兄、妹で遺産の分け方について話し合いをしています。
このとき、
「皆が納得しているから、うちは遺産分割協議書は必要ない」と、
特段、遺産分割協議書は作りませんでした。
父名義となっていた自宅の土地建物についても、「市役所で手続きをして固定資産税を母の口座から支払うようにしたので問題ない」と思っていました。
その後、時が流れ、母が老衰のため介護が必要になります。
妹は仕事の傍ら献身的に介護をするのですが、兄はまったく手伝おうとしません。
妹は自分ばかり介護を押し付けられ、疲労と不満が高まっていきます。
ある日、意を決して母に「苦労している分、相続がおきたら兄より遺産を多くもらいたい」と相談したところ、母もまったく顔を出さない兄に憤慨していたらしく、「全財産を妹に相続させる」という内容の遺言書を残しました。
そして、母が亡くなります。
母の財産は、結局、介護や施設費用でほとんど預金は残っておらず、価値が残っている財産は自宅の土地建物のみとなっていました。
自宅は人気のエリアに建っており、売却すればかなりの高値で売れる場所です。
兄と妹で遺言書の内容を確認しました。
遺産分割協議書を作らなかったら何が困る?
話し合いが行われた事の証明が難しい
あとで「遺産分割協議をした覚えはない」と言われてしまった場合、口頭だけで遺産分割協議をしたことを証明するのは非常に困難です。
遺産分割協議をした当時仲が良かったとしても、介護をきっかけとして関係が壊れてしまうなど相続人を取り巻く環境が変わらない保証はありません。
このような事態を防ぐ意味でも、遺産分割協議書は作成しておくと良いでしょう。
不動産の名義変更(登記)ができない
「市役所で名義変更の手続きをして、固定資産税も相続した人が払っていたので、名義変更が済んでいたと思っていた。」と誤解されている方がいらっしゃいます。
不動産の名義変更は、法務局で「登記」をしなければ完了しません。
登記をすると、登記簿謄本に名前が記載されます。
こうすることで、初めて自分のものだということを他人に示すことができます。
今回の事例では、父の相続の際に自宅を「登記」をしていなかったために、
母の相続で「全財産を妹に相続させる」と遺言書を残しても、妹は自宅が母の持ち物であると主張できなくなりました。
また、登記をする際には、原則、遺産分割協議書が必要になります。
相続税申告が必要な場合
遺産金額が以下の計算式を超えている場合、税務署に対して相続税申告が必要になります。
3,000万円+600万円×法定相続人の数
相続税申告では、納税額を軽減してくれる「特例」を活用することがあります。
この特例を使うための条件として「遺産分割協議書」を添付することが求められます。
代表的な例として次の特例があります。
▼相続税の配偶者控除(配偶者の税額軽減)
配偶者が相続した財産について、最低1.6億円までは相続税がかからなくなる制度
▼小規模宅地等の特例
亡くなった人が所有していた土地についての評価額を80%減額できる制度
国税庁のパンフレットにもこのように遺産分割協議書を添付するように記載があります。
いずれも大きな減額が受けられますので、このような特例を受ける予定の方は遺産分割協議書を作っておくべきです。
まとめ
遺産分割協議書は、家族間での信頼があっても作成しておくことが重要です。
口頭での合意では後々の証明が困難になることがあり、特に相続税の税制優遇を受ける際や不動産の名義変更などの手続きでは書面での確認が必要になります。
ご自身のご家庭にあてはめてみて、作成する、しないをご判断いただければ幸いです。
遺産分割協議書の作成に自信がない方は、弊所でも遺産分割協議書の作成を代行しております。
それでは、またのコラムをお楽しみに!