相続した遺産(不動産)を売却して現金で分配する手順と税金の注意点

相続した不動産を売却し、現金で相続人同士に分けたいと考える方は多いと思います。
「売って分けるだけ」と思いきや、手順を追って進めないと税金上で損することがあります。
この記事では、相続した不動産を売って分ける手順や、その際にかかる税金について、わかりやすく解説します。
まずは相続人全員で話し合いましょう
不動産の売却には、相続人全員の協力が必要です。
以下の順で話を進めましょう。
①不動産を売却して現金で分けることに全員が同意する
②どのように分けるか(遺産分割の方法)を決める
この「遺産分割の方法」によって、誰がどのくらい税金を負担するかが変わってきます。
遺産分割の2つの方法と税金の違い
① 代償分割(だいしょうぶんかつ)

相続人のうち1人が不動産を相続し、その代わりに他の相続人へ現金(代償金)を支払う方法です。
▼ 代償金の出どころ
不動産を売って得たお金から支払っても、自分の貯金から支払ってもOKです。
▼ 代償金の金額
代償金の金額は、売却前に決めておかなければなりません。
想定した金額で不動産が売れなかった場合でも、相続した人は決めた通りの代償金を支払うことになります。
代償金の金額を決めるにあたっては、慎重な見積りが必要です。
また、相続した財産以上の代償金を支払うと、贈与税が課税されるリスクがあります。
▼ 税金の負担者
不動産を相続した人が、譲渡所得税を支払います。
② 換価分割(かんかぶんかつ)

相続人全員が不動産を相続し、一緒に売却、その売却代金を分け合う方法です。
▼ 分配金額の決め方
売却額に対してそれぞれ何割分配するか、割合で決めます。
▼ 税金の負担者
不動産を分ける全員が、それぞれ譲渡所得税を負担します。
譲渡所得税っていくらかかるの?
「譲渡所得税」とは、不動産を売って利益が出た場合にかかる税金のことです。正確には「所得税」と「住民税」の合計を指します。
▼ 計算式
①譲渡所得 = 売却価格 -(取得費+譲渡費用)- 特別控除(該当者のみ)
②譲渡所得税 = ①× 税率※
※税率(不動産の保有期間による)
● 5年超え:約20%
(所得税15%+住民税5%)
● 5年以下:約39%
(所得税30%+住民税9%)
不動産の保有期間:ご先祖が最初に不動産を取得した時から売却年の1月1日までの期間
【重要】3,000万円の特別控除が使える場合もある
亡くなった方が住んでいた不動産や、空き家になっていた家には、3,000万円の特別控除が使えるケースがあります。
この控除が使える人と使えない人が相続人に混在していると、分け方によって手取り額に差が出ることがあるので注意が必要です。
■ 控除の有無で変わる例
▼前提条件
売却額 | 4,000万円 |
取得費・売却費用 | 2,000万円 |
税率 | 20% |
相続人 | Aさん 3000万円控除あり Bさん 控除なし |
● 代償分割(Aが相続→売却→Bに2,000万円の現金渡す)
- ・Aの税金:0円(3,000万円控除で利益ゼロ)
- ・A・Bともに手取り2,000万円(公平)
● 換価分割(A・B共同で売却し、売却金を2分の1の割合で分配)
- ・Aの税金:0円(控除でカバー)
- ・Bの税金:200万円
- ・Aの手取り:2,000万円
- ・Bの手取り:1,800万円(税金分減少)
👉結論
誰が不動産を売るかで、税金の負担が大きく変わることがあります。
特別控除を使える相続人がいる場合は、代償分割にした方が手取りが多くなることもあります。
遺産分割協議書には「分け方」を必ず書こう!
不動産を売って現金で分けるときは、遺産分割協議書に「代償分割」か「換価分割」かを明記してください。
記載がないと、現金を分配する際に税務署から「贈与」とみなされて、贈与税が課税されるおそれがあります。
譲渡所得税とは別に、余計な税金を払うことになってしまいます。
不動産の売却~確定申告までの流れ
相続不動産を売却して分ける場合、以下の手順で進めましょう。
① 不動産会社の選定と売却活動
複数の不動産会社に査定を依頼します。
単に査定書を取り寄せるだけではなく、担当者からの説明も受けることをお勧めします。
担当者の熟練度や、売却にあたっての戦略などを知ることが出来ます。
筆者の経験ですが、
「私なら早く売れますよ!」
「この工事をしないと売れません」
と提案されたら、他の業者も同じ提案をするのか確かめてみましょう。
比較した結果、最初の売り出しが相場より安かったり(安くすればおのずと早くは売れます…)、取引先から紹介手数料を貰うために余計な工事を進めてくるなど悪質な会社があります。
👉信頼できる業者を見極めるために、手間を惜しまないことが大切です。
② 売却タイミングに注意(小規模宅地の特例)
相続税の申告が必要な方で、「小規模宅地の特例」を使う予定がある場合は注意が必要です。
❓小規模宅地の特例とは
土地の評価を80%減額できる特例です。要件の一つに、申告期限まで保有し続けることがあります。
相続開始から申告期限(原則10か月以内)までの間に土地を売却してしまうと、この80%の評価減特例が使えなくなります。
👉 売却は申告期限の後にしましょう。
③ 売却代金を分配する
遺産分割協議書の内容に沿って分配します。分配は振込にすると、通帳に記録が残り、トラブル防止になります。
④ 翌年の3月15日までに確定申告をする
項目 | 内容 |
いつ? | 売却した翌年の2月16日~3月15日 |
誰が? | 代償分割→相続した人 換価分割→分配を受けた人 |
何をする? | 譲渡所得の確定申告し、納税する。 |
申告書の作成には、国税庁の「イータックス(e-Tax)」を使うと便利です。
👉 e-Tax公式サイトはこちら
相続不動産の売却で税金が心配な方へ
不動産の売却と遺産分割、税金の関係はとても複雑です。
特に「代償分割」と「換価分割」での税金の違いや、特別控除の使い方は、少しの判断ミスで損をしてしまうこともあります。
不安がある方は、相続専門のなほ税理士事務所にぜひご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは、またのコラムをお楽しみに!
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